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リターン<EOE編>
〜トビラの向こうのわたしたち〜
第弐話 奇跡を呼ぶ少年


 前回(まえ)も初めて出撃したのは夜だった。

 陽はとうに暮れているが、周りのビル群の明かりはなく、まるで墓標のようだ。戦闘に関係のない民間人は既に非難を終えているからだが。夜間戦闘用の赤いライトといやに大きい月の光が、第3新東京市を照らしていた。

「落ち着いて、シンジくん。ゆっくりと、歩くことだけ考えて」

 使徒を目前にした戦闘訓練などしたこともない少年に、リツコはかなり無理な注文をする。

「・・・歩く・・・」

 ・・・ね。敵を前にして随分呑気だよなぁ、ネルフって。もう少し、早く呼んでくれれば、まだマシなことになったんだろうけど。でも綾波のシンクロ率が起動レベルに達しないって解かったのは、最近のことみたいだし、仕方がないかも。

 シンジは一歩前進させると、発令所から感嘆の声があがっている。

 ほんとに一回も起動に成功していない機体に、よく命を賭けることが出来るなぁ。―――実はやっぱりすごいことかも。

 内心結構呑気なシンジだった。というのもレイからこの使徒のことを聴いているということもある。前回(まえ)は初号機の暴走で得た勝利だったので、詳しいことを実は知らない。だが、そんなに強くはない。気をつけなければいけないのは、左腕から発せられる光の矢と自爆くらいだそうだ。

 シンジは目前でこちらの出方を伺っていた使徒から少々離れ、逃げるフリをしながらある場所へと移動した。

「ミサトさん、何かないんですか! 武器は?」

 ミサトの視線を感じたリツコが、代わりに答える。

「武器が左肩にあるわ。プログナイフというんだけど。出し方は・・・」

 言いきる前にいきなり肩のパーツから、プログナイフが装備しやすいように斜めに飛び出してくる。

「・・・こうですか。なるほど、頭に思い描けばいいっていうのは、こういうことなんですね」

「そうよ」

 リツコはシンジの勘の良さに感心した。

「シンジくん、目標を確認できる?」

「はい」

「目標の胸にある光球が見えるわね。あれが弱点である可能性が高いと、マギが判断したわ」

 10階建てほどの同じようなビルが続く、かつて第3新東京市を築いた人々が住んでいた団地の中に初号機は陣取った。本来ならば住宅街を戦場にするなど言語道断な話であるが、現在ここにはひとりしか住んでいない。

 使徒の速射砲による攻撃で周りのビルはどんどん破壊されていく。しかし、初号機には効果がないとみたのか、ゆっくりと左腕を持ち上げると、そこに光の矢が出現した。

「行きます!」

 シンジはプログナイフを構え、使徒に迫る。が、予想通り、A.T.フィールドに阻まれた。

「な、何ですか、コレ!」

「A.T.フィールド! やっぱり使徒も持っていたんだわ!」

「それがある限り使徒には近づけない!」

 ミサトとリツコの叫びに、再び距離を取る。

「どうしたらいいんですか!」

「エヴァも使えるはずよ! 壁・・・バリヤでもいいわ、そういうのをイメージしてちょうだい! 同じA.T.フィールドならば目標のソレを中和できるわ」

「・・・やってみます」

 ありそうなことなら、最初から言ってくれたらいいのに。A.T.フィールドって言葉も作ってあるんだし、先のUN戦でも確認出来たと思うんだけどな。もう少し、情報収集したほうがいいんじゃないかな。初戦だから混乱させたくない、とかそういうことかもしれないけど。

 シンジは目標のA.T.フィールドを中和―――侵食すべく、集中した。





 静寂は一瞬。

「・・・も、目標は完全に沈黙しました」

 いち早く自分の職務に気付いた青葉シゲルが沈黙を破ると、途端に発令所に歓声が沸きあがった。モニターには初号機と使徒が映し出されている。使徒の胸にあるコアは光が失われ、ひび割れていた。

「初号機を回収して。第7ケイジへ」

「はい」

「パイロットは?」

「心音、脳波、共に正常。問題ありません」

 ミサトとリツコから次々と飛ばされる指示に、オペレーター達はすぐに喜びを表情から引っ込めた。もしこの勝負に負けていたら、後処理も何もないのであるから、忙しい現状に感謝すべきかもしれない。

 そんな中、司令と副司令の2人だけは態度には出ていないが呆然としていた。

「・・・碇」

「ああ。だが、問題ない。―――あれくらいではな」

 ネルフ発足後、初めての使徒戦は、人類の勝利に終わった。―――恐らく戦闘など経験したことがないであろう少年によってもたらされたその結果に、次の使徒が襲来するまでの時間を与えられたのだった。





「シンジくん、よくやってくれたわ」

 ミサトは帰還したパイロットに労いの声を掛けた。

「疲れていると思うけど、この後は身体検査を受けてちょうだい。・・・こっちよ」

 シンジはミサトの後に着いていくが、迷われては大変なのでしっかりと方向を確認しながらである。

「ミサトさんは、後始末ないんですか?」

「いいのよ、それは日向くんに全部押しつけて・・・じゃなくって、シンジくんのケアは私の担当なのよ」

 気の毒に、日向さん。こんな人が上官だなんて。あ、でもこれから僕もミサトさんが上官になるんだっけ。

 シンジの脳裏に、人柄の良さが滲み出た眼鏡のオペレーターが浮かぶ。

 そういえば日向さんとはあまり話をしなかったなぁ。最初は綾波ともほとんど会話がなかったし。

「あの、綾波は?」

「あらん。もう呼び捨てなんかにしちゃって。かわいい顔して、シンジくん、手が早いのね」

 ミサトのからかうような―――事実からかっているのだが―――目に、シンジは溜息をつく。

「そうじゃなくてですね」

「ちぇ、つまんないの。戦闘の時もかなり落ち着いているし、度胸が据わってるわね。でも今は会えないわよ」

「どうしてですか?」

「あのねぇ、シンジくん。今何時だと思ってるの。こんな時間に女の子に会わせるわけにはいかないわね」

「その”こんな時間”まで働かせておいて」

「・・・ううっ、悪いとは思ってるわよ。でも本当に今、エヴァを動かせるのはシンジくん、あなたしかいないのよ、ココには」

「じゃあ、ココでないところにはいるんですね、正規のパイロットが」

 シンジに見つめられて、ミサトは頷いた。

「ええ。今、ドイツよ」





「碇くん」

 レイは、シンジが身体検査の後、司令室から戻ると、真っ先に声をかけた。

「綾波。待っていてくれたの? ありがとう」

 シンジが微笑むと、レイは頬をうっすらと桃色に染めた。

「今日から碇司令と一緒に住めるのね。・・・よかった」

「うん。綾波に言われなかったらそんな条件なんて思い浮かばなかったと思う」

「碇司令は怖がっているだけ。碇くんとの接触を」

「と、綾波がいうから僕は信じるよ。―――でも」

「え?」

「綾波も一緒に住むことになるからね。だって、あの団地は壊れちゃったから」

 楽しそうに言うシンジにレイはますます赤くなった。そして、自分の願いを言わずともちゃんと相手に通じていたことを嬉しく思った。




後書き
 前話から約3ヶ月。ぎょえ〜、遅い〜。ラストもちゃんと決まっているのに、何故?
 ちなみにレイの願いは、”碇くんと一緒にいたい”です。だいたい最後の一文でわかるかな?
00.5.7 Version 1.0


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