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「・・・何を願うの?」



リターン<EOE編>
〜トビラの向こうのわたしたち〜
第壱話


 シンジが目を覚ますと、部屋に月明かりが差し込み、開かれた窓から入った風が小さくカーテンを揺らしていた。

 その光景にシンジがまず感じたのは違和感だった。

 ベッド、勉強机、椅子、本棚。

 どれも見慣れた物である。

 ・・・?

 シンジはベッドから降りると、机に向かった。何か白いもの―――封筒が置いてあるのが、目に入ったからだ。

 碇シンジ様、と、どこかで見たような筆跡だった。裏を返してみると、差出人は葛城ミサトとなっていた。

 なんだ、ミサトさんからか。・・・電話で話せばいいのに、どうしてわざわざ手紙になんかするんだろう。

 そう思いながらライトを点け、封を切る。

 中には赤いカードと写真と切符、そして手紙が入っていた。

 手紙を広げたとき、シンジは初めて違和感の正体を知った。

 手紙には「来い」という一言だけが書かれてあった。

 ・・・ここは、先生の家じゃないか。

 シンジとためと称して建てられた勉強部屋。そこはいわゆる離れであり、先生のいる母屋の間に小さな庭が存在していた。それはシンジと先生の関係を如実に表していた。

 僕はこの家を出て、確かに第3新東京市へ行ったはず・・・そして、そこで使徒と戦って・・・。

 第3新東京市で起きたこと・・・エヴァに半ば無理矢理乗せられ使徒と戦ったのは全て夢だったのだろうか。

 綾波やアスカ、友達になったトウジ、ケンスケ。家族として接しようとしてくれたミサトさん。他にリツコさんとか日向さん、青葉さん、マヤさん。

 あんなに生々しい・・・一連の体験が、夢?

 そんなはずはない、と、身体のどこかがいっている。

 じゃあ、僕はどうしてここにいるのだろう。

 シンジは記憶をたどる。間違いなく体験したと思われる記憶が次々と蘇ってくる。

 結果、最後と思われるのは、「何を願うの・・・」と問い掛ける女性の声だった。

 ここは・・・僕の望んだ世界なの? ・・・でも、僕は一体何を望んだんだろう。

 肝心なそこのところの記憶がないことを残念に思ったところで、封筒の内容が記憶と違っていることに気付いた。

 「迎えが・・・ミサトさんじゃない・・・・・・綾波なのか」

 水色の髪と赤い瞳の綾波の顔写真に、”迎えはこのコが行くからね”というメッセージがミサトさんの字で添えられていた。





 「本日、12時30分。東海地方を中心とした関東、中部全域に特別非常事態宣言が発令されました。住民と方々は、すみやかに指定のシェルターへ避難してください。繰り返しお伝えします―――」

 突然停止したモノレールから降りたシンジの耳に入ってきたのは、以前にも聞いたことのある内容のアナウンスだった。

 陽炎の立ち昇る人気のない街並みを、シンジはバッグを担いでメインストリートの方へと歩を進める。

 迎えに来ることになっている綾波の姿はまだ見えなかった。

 遅刻するような性格ではなかったはずだけど。ミサトさんと違って。

 それとも以前とまったく違うとか。

 ・・・僕と同じで、と思いながらシンジが歩いていると、突然、轟音が轟いた。
 顔を上げると、前方の山間から巨人が姿を現す。

 第3使徒サキエル。

 以前に見た資料には、そう記載されていた。

 使徒は国連軍の猛烈な攻撃を受けているようだが、まったく意に介した様子がなかった。・・・感情や感覚がないだけかも知れないが。

 「使徒、か。・・・やっぱり」

 あれは本当にあったんだ、とシンジが使徒を眺めているその間にも、次々とミサイルが頭上を飛び越え使徒に向かっていく。確実に着弾しているが、致命傷どころか傷すら与えられないようだ。A.T.フィールドを肉眼で確認することはできないが。

 とりあえずシェルターに向かおう。

 シンジは使徒を横目に見ながら、シェルターに向かって走り出した。

 使徒は群がる戦闘機を腕から伸びる光によって、次々と打ち落としている。

 「うわあ!」

 使徒の攻撃を受けた戦闘機のうちの一機が、シンジの目前に墜落し炎上する。

 それによる爆風がシンジを襲った。





 「目標は依然健在。現在も第3新東京市に向かい、進行中」

 「航空隊の戦力では足止めできません!」

 「厚木と入間の戦闘機も、全機上げさせた」

 「総力戦だ! 出し惜しみはなしだ! 何としても目標をつぶせ!」

 特務機関ネルフの発令所で、国連軍士官たちは拳を振り上げ、目標に対し結果をあげられないことに興奮していた。

 「やはり、A.T.フィールドか」

 「ああ、使徒に対し通常兵器では、役に立たんよ」

 国連軍士官に指揮権がある以上、手を出せない立場のネルフ司令と副司令は、その様子を冷静に観察するのみであった。





 「・・・?!」

 思わず交差させていた手を降ろすと、赤い8角形の半透明の壁がシンジの前方に展開されているのが見える。

 「A.T.フィールド・・・?」

 自分を守ってくれる赤い壁を見つめてしばらく呆然としていたシンジだったが、背後に視線を感じ振り向いた。・・・水色の髪を持つ人物が単車に乗って来るのが見えた。

 「碇君」

 「あ、ありがとう、綾波。・・・僕を覚えてる?」

 「ええ。碇君も私のことを覚えていてくれたのね。でも」

 「でも?」

 「・・・他の人は」

 レイは無言で小さく首を振った。

 「・・・つまり、僕たちだけってコト?」

 「わからない・・・セカンドも、かも知れない」

 起きたはずのサード・インパクトでソコに居合わせたのは、シンジ・レイ・アスカの3人だった。

 「そう。とにかく、今は本部へ向かわないと」

 レイは黙って、単車からヘルメットを取ってシンジに手渡した。





 「何故だ! 直撃のはずだ!」

 「ミサイルも爆撃効果もまるでなし、か」

 「目標はDエリアに侵入しました」

 その時、電話の赤ランプが点灯し、国連軍士官のうちのひとりがカードキーをスリットさせ、受話器を取った。

 「わかりました。予定通り、発動します」





 「綾波ってバイクの免許、持ってたんだ」

 レイに手渡されたフルフェイス・ヘルメットには通信機能がついており、運転中も普通に会話できるようになっていた。

 「いいえ」

 「え? でも、運転してるじゃないか」

 「国際公務員だから必要ない、と葛城一尉が言っていたわ。それに運転方法も教えてくれたの」

 何を考えているんだ、ミサトさんは。

 「私が碇君を迎えに行きたい、と言ったら、そう手を回してくれたの」

 にんまりとした表情のミサトが、シンジの脳裏に浮かんだ。おそらく間違えてはいないだろう。

 「そ、そういえば、零号機は暴走しなかったんだね」

 以前、シンジが初めてレイに会ったとき、レイは零号機の暴走によって重傷だった。

 「確かに暴走はしなかったわ。でも、シンクロ率も起動レベルにはならなかった。・・・だから、碇君が呼ばれたの」

 「そう。・・・でも、お陰で綾波に会えたし、・・・その方がずっといいよ」

 「ありがとう、碇君」

 ヘルメットの下で、レイはにっこりと微笑んだ。が、すぐに表情を引き締めた。

 「! 碇君、今、N2地雷が使用されたわ。これでしばらく時間が稼げるわね」

 レイの展開したA.T.フィールドの向こう側は全て吹き飛んでいく。

 「今のうちに急ごう」

 シンジの言葉にレイは肯くと、スピードをさらに上げた。





 シンジは、シンジにとって3ヶ月ぶり、ゲンドウにとって3年ぶりの再会を果たすと、あっさりとエヴァに乗ることを承諾した。

 シンジのプラグスーツはまだないので、制服姿のまま乗り込む。

 「大丈夫、肺がLCLで満たされれば直接酸素を取り込んでくれます」

 エントリープラグにLCLが注水されると、リツコの説明がある。

 ・・・本来ならもっと早くに説明するべきことなのに、いまさら、である。レイに慣れているためだろうか。

 「気持ち悪い・・・」

 シンジがLCLに対する感想を述べると、ミサトの叱責が飛ぶ。

 「我慢なさい、おっとこのコでしょう!」

 この感覚に男も女もないのに・・・ひどいや。ミサトさんも一度乗ってみればいいんだ。

 「お言葉ですが、ミサトさん。僕、女なんですけど」

 これが冗談でないことは昨日から十分に調べた結果、確かだったりする。

 どうせ、検査とかですぐバレてしまうのだから、今のうちに言ってしまおう。

 これがシンジの考えた末の結論だった。

 シンジが発した言葉の爆弾に発令所の面々が急に静かになった。皆の目が点である。

 「何冗談を言ってるのよ、シンジくん? あなたは男の子でしょう」

 「戸籍は男の子、になってるわよ?」

 いちはやく立ち直ったリツコとミサトが口々に言う。

 そんなことを言われてもホントなんだけどなぁ。

 「何故か僕にもわかりませんが戸籍が間違いなんです。この後で確認します?」

 「「ええ」」

 二人の台詞が重なった。

 「じゃあ、この話はこれくらいにして・・・早くエヴァを起動させましょう。もう随分使徒も侵攻して来ているはずだわ」

 今はとにかく時間がない状態である。搭乗しているパイロットには戦闘経験などなく、ましてや先ほどインタフェースもなしにエヴァが動いたからといって、戦闘・・・使徒を殲滅することが出来るのかというよな保証が全くないのだ。死ぬか生きるかの瀬戸際であることを思い出し―――何か結構いい加減というか、軍隊っぽくないというか行き当たりばったりな組織だ。作戦部部長と技術部部長は発令所でもお互い名前で呼び合ってるし―――、リツコはオペレーターに指示を出す。

 オペレーターによってチェック項目の確認が次々と読み上げられていく。

 「第2次コンタクト、準備よし」

 「主電源接続」

 「A10神経接続、異常なし」

 「思考形態は日本語を基礎原則として、フィックス」

 「初期コンタクト、全て異常なし」

 「双方向回線、開きます」

 表示されたシンクロ率に、マヤは一瞬戸惑うが直ぐに気を取り直して告げた。

 「シンクロ率、97.8%」

 そのあまりの高シンクロ率に、レイのデータしか知らないネルフのオペレーターたちのどよめきが起きる。

 「いける・・・」

 ミサトは思わず呟いてから、号令を出す。

 「発進準備!」

 エヴァ初号機がケージから射出口へと運ばれるのを確認し、ミサトは司令席にいるゲンドウに念を押す。

 「かまいませんね」

 「もちろんだ。使徒を倒さぬ限り、我々に未来はない」

 ・・・そう、私たちが戦うのは、未来のためよ。そして・・・。

 15年前、南極で自分を救難カプセルに押し込み死んだ父親の姿が脳裏を掠める。

 「進路クリア、オールグリーン」

 「発進!!」

 待っていた報告に、ミサトは号令を出す。固定台ごと発射されたエヴァ初号機は、敵である使徒の正面の射出口から姿を現すことになった。

 「死なないでよ・・・シンジくん・・・ううん、シンジちゃんかしら」

 ミサトの呟きは誰にも聞こえなかった。


第弐話へ


後書き
 この世界でシンジたちが体験したサードインパクトは劇場版とは異なります。あと、EOEのあとにシンジが女の子になるのは、最近結構いっぱいあるので、また設定を変えた方がいいかと思ってます・・・。
00.01.16 Version 1.0


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