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        〈ほんこさま〉 (家庭の報恩講)

 私が生まれ育った村では、年に一度お内仏(家庭のお仏壇)の「ほんこさま(報恩講)」をおつとめ
します。「おとりこし」というところもあるようです。
 この日は、親類が大集合します。以前は「ほんこさま」の他に日を置かずに先祖供養の法事をしま
した。「お茶」といっていましたが、同じようにお斎を用意しました。私が物心ついたころは、「お茶」は
ほんこさまと合せてやる家庭が多かったように思います。
 各家々では、ひと冬の間に親戚の数の2倍そんなハレの日がありました。お寺であった私のところ
では、ご門徒の家の数の2倍そういう機会があったわけす。だいたいどこの家でも似たりよったりの
献立ですから、子どものころは冬中同じものを食べていた記憶があります。
 この日のためとっておいた、文字どおり「とっておき」の食材でお斎(とき)を用意します。山盛りの
精進料理の御膳です。とても食べきれませんので、3段重ねの重箱を持参して、残ったご馳走を持っ
て帰ります。留守番の家族へのお土産です。
 大型の除雪機がなかったころは、12月から3月まで雪にとじ込められる、山深いところでした。
冬の間は山仕事も畑仕事も工場の仕事もみんな停止して、ひたすら雪解けの便りを待つ日々の中
で、ほんこさま は、大人にとっても子どもにとっても心はずむ日でした。
 その村は25年ほど前にダムができて、すべて水没してしまいました。230軒ほどの家はみな
バラバラになってしまいました。それ以来古くからの村の風習はどんどん姿を消していきました。
最近では、昔ながらのスタイルでほんこさまをやる家庭は少なくなってしまいました。
                                (2002年2月24日/2003年2月9日)

【勤行】最初は勤行です。正信偈、念仏和讃。
   

 

【御文拝読】
 
 この日は手次のご住職がご都合が悪く、今年大学を卒業して就職予定の息子さんが来て下さい
ました。ご本人の緊張が全員に伝染し、最後「あなかしこ あなかし」で一同「ほっ」でした。土木工
学の勉強をされたとかで、法話は辞退なさいました。これから長いお付き合いになります。
(右)2003年にはご住職が見えて、法話をいただきました。
  


【勢ぞろいの御膳】          【ご馳走】 
隣の部屋で、勤行と法話が終るのを      輪島塗の揃いの御器に山盛りの
静かに待っています。               精進料理です。
   

【一の膳】(2003年)
 
(1)手前右「四つぼ豆腐」。我が村名産の堅豆腐の角切り。手前右に見える煮物腕の
  最上段の「三角豆腐」のも同じもの。
(2)中段右は「人参の胡桃あえ」。山胡桃をすり鉢で時間をかけて摺り上げて、薄味で
 煮た人参をあえます。淡泊な味が多い精進料理の中では、かなり濃厚な食感です。
 (3)右奥は「煮物腕」。10センチぐらいに切って煮たごぼう、人参、ふきをかんぴょうで
 束ねてあります。「がんもどき」が見えます。その隣にある黄土色のものは「ぎぼし」と
 いう山菜の煮物です。これも束ねてあります。このお腕には、じゃが芋・さつま芋・
 山芋・里芋などが加わることもあります。
(4)中央にある黒い山は「黒豆」です。普通、豆はやわらかく仕上げるのが常識である
 ようですが、私の村では黒豆は「堅く」煮るのが好まれます。やわらかく煮るには砂糖
 を少しずつ加えていくそうですが、うちでは最初からどばっと砂糖をいれます。その堅さ
 加減がなかなか難しいみたいです。
(5)黒豆の奥は「あずき棒」。正式にはなんと言うのか知りません。親鸞聖人の好物だっ
 たとかで、報恩講にあずきはつきものです。これは、小豆を粒がつぶれるくらいにやわら
 かく煮て、型にはめてつくります。味付けは薄甘くしてあります。これに手をつける人は
 あまりいません。たいてい持って帰って、ご飯にかけて食べたり、砂糖を加えて煮て
 ぜんざいにしたりします。
(6)手前左は、見ての通り「てんこ盛りご飯」です。田んぼがなかった山奥の村で白米が食べ
 られる機会はごく限られていたので、てんこ盛りご飯は一番貴重なごちそうでした。
(7)左中段は、ご飯に隠れて見えにくいですが「こんにゃくの煮物」です。
(8)左奥は、中段右の人参と同じ胡桃あえですが、こちらは「ぜんまい」です。
 我が家では昔から、胡桃あえはこの二種類作ります。
 ほんこさまの御膳にしか登場しない逸品(二品?)です。


【なめことくずし豆腐汁】
  
このほかに「なめことくずし豆腐の汁」がこのお膳にのります。「くずし豆腐」というのは、
にがりと合せた豆乳を型に入れずに水の中に泳がしたまま凝固させたものです。
 早い話がぼろぼろにくずれた豆腐です。私の村では、ほんこさま になめこ汁にはかかせません。
ささがきごぼうを入れて、醤油仕立てにします。
 なんと言っても、なめこは缶詰めがうまい。なめこ缶詰めも我が村の特産だったのですが、
売れ行きが悪く在庫の山で、昨年製造中止に追い込まれました。
また一つ「うまいもの」が消えるのか。


【二の膳】
 (2002年)
左側は、「ぜんまいとあぶらげの煮物」、右側は「たけのことこんぶの煮物」です。
 奥の空のお皿は、漬物などのとりざらです。

【お引き】
 
これは「二の膳」に用意してあったものですが、どんぶりや重箱に入れて回します。
この他に漬物と大根の煮物があります。
お土産用にもたっぷり用意してあります。右は2003年です。

 
右(2003年) 小さい器から取っているのは わさび です。薬味としてなめこ汁に入れると一段と風味が増します。

子どもたちのお膳は、ちょっと
少なくしてあります。
【歓談】 食事をしながら歓談
年に一度、この時しか顔を合わ
さない人もいます。
  ↓ 空のお椀の山。これで
二人分です。


食事の後はお茶とお菓子 ↑各自持参の重箱にお膳の残り物、たくさん用意したお引きの煮物や漬物を満載し、お供えのお餅、
ミカン、お菓子などで風呂敷包ははちきれんばかりです。(右2003年)叔母さん、ご満悦。


 私の生まれた村では、昔は、こんなのんびりした光景がどこの家でも見られたのですが、
そういう風習がだんだんすたれつつある今となっては貴重な風景です。


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